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第5回 「エンターテイメントって人の感情に訴えかけるもの。」

株式会社ホリプロ

ダイレクトコミュニケーション事業部/WEB戦略部 永田克弘さん

今や、テレビより面白いコンテンツも目白押し(!?)との噂もあるのが、ニコ生やYouTube。見たことがない人の方が少ないですよね。インターネットを利用したエンターテインメント業界の最前線です。

そんなフィールドでお仕事をしているのが、今回お話を聞いたホリプロの永田さん。長くテレビ業界で活躍し、その経験を活かして、今はインターネットへと仕事の場を移しています。

このコーナー始まって以来、初の少しベテランのゲスト登場。これから業界を目指す人には必聴の、ありがたいお言葉が満載です!


すべてがネットのコンテンツには活かされています。~この仕事を目指すキッカケ~

――まず、簡単な経歴を教えてください。

もともと僕はテレビ番組の制作がしたくてこの世界に入ってきました。僕らの時代はテレビという文化にいろいろと変化があった頃。テレビ業界がすごく元気で、それまでのように映画俳優だけではなく、テレビタレントもスターと呼ばれた時代です。現在は例えば妻夫木聡の事を「俳優」と呼んでも「スター」とは言わないですよね。当時はテレビや映画に出ている人達は「スター」でした。僕にとってのスターは「ザ・ドリフターズ」でしたけど・・・ドリフターズの後には、ひょうきん族です。その頃から、裏側で働くスタッフがテレビの表側に出るようになってきました。その後とんねるずがスタッフをいじることによって、一つの笑いを作ったり。

――制作を志望していたのに、プロダクションであるホリプロに?

当時、ホリプロの中にホリックスというテレビスタッフが所属する子会社が出来たばかりで、そこで働くことになったんです。ただ、ホリプロにはタレントのマネジメント以外にも、テレビ制作や音楽事業など様々な事業部があって、ホリックスで働き始めてすぐにCM制作の部署で人手が足りないということになり僕に話が来ました。それまでCMの制作は携わったことはないし、考えてもいませんでした。その部署で働くことにして、ホリックスとの契約からホリプロとの契約になり、5~6年CMの制作をやっていました。その後、人事異動の通達が来てマネージャーになることになりました。

――ホリプロの社員と聞くと、やはり一般的なイメージはタレントのマネージャーですよね。

そうですね。僕はやっとそこからです(笑)。最初に担当したのは船越英一郎でした。そこから10年以上はマネージャー。もともと志していたわけではないですけど結局マネージャー業が一番長いです。船越の次は井森美幸の担当になって、ドラマ漬けだった生活がバラエティ漬けになりました。その現場では、昔テレビで見ていたひょうきん族のディレクターさんに会うこともできましたね。でも毎年「制作に戻してください」とは言ってましたけど(笑)

――マネージャーの後に今の部署に?

いや、まだあります(笑)。マネージャーの次はDVDコンテンツを作る部署。そこは現職であるWEB戦略部の前身のような部署で、DVDを作るだけでなく、ネット用の動画を作っていました。そこに1年ほどいて、さらにそこからテレビの番組制作に関わる部署に異動して、『Qさま!!』という番組をずっと担当していました。

――司会のさまぁ~ずと優香は両方ホリプロですね。

そうです。テレビの仕事って、一般的にはアシスタントから始まって、ディレクターになって、プロデューサーになって、、、という感じですが、僕は1度マネージャーを挟んで、10年以上経ってからテレビに戻ってきて、いきなりプロデューサーをやれって言われて(笑)。タレントのマネジメント要素を含めたプロデューサーという形でテレビ朝日さんとはお仕事をさせてもらいました。そこでも6年くらいですね。

――でもその時に、自分がずっとやりたかったことができたんですね。

そうですね。意外に辛かったけど(笑)。そして今の部署が2年ほど前にできて、ここに配属になりました。僕はもう入社して20年です。その間に番組のプロデューサーやCMの制作、もちろんマネージャーもやりました。そのすべてが現在の業務であるコンテンツ制作には活かされていますね。

自分で機材をかついでいきます(笑)~現在の仕事内容~

――では、現在はどういったお仕事をしているのですか?

すごく大雑把に言うと、インターネットというメディアを使ったビジネス全般です。ホリプロは芸能プロダクションなので、我々が売るのはタレント。彼らはテレビや雑誌に露出していきますが、それ以外でもプロモーションとして露出する場所はないか、そしてそれをビジネスにつなげる方法はないかを考えていくのが大きなテーマですね。

――具体的にはどういったことを?

まずニコニコ動画やYouTubeなどの動画サイトで自社のチャンネルがあるので、そこに公開する映像コンテンツを作っています。例えばワイドショーの取材みたいなことを社内で独自にやっていて、所属タレントが出演する作品の制作発表や記者会見があると、もちろん我々もその場に行くんですが、我々は他のメディアさんとは違って、同じ会社という利点を活かして記者会見の裏側にも入ることができるんです。最近だと、藤原竜也が出演している『カイジ2』という作品が公開されましたが、試写会の後に楽屋に行って、藤原竜也本人に話を聞くこともできました。そういったオトク感のある動画コンテンツを作成しています。

――それを編集して、番組として公開するんですね。

そうです。それだけでなく、ニコ生やYouTubeでも生放送形式の番組を週に3~4本ほどやっています。それにタレントのブログや様々なサイトの運営、アフィリエイト事業も行っています。今年で2年目の事業部ですが、これまでは収益のまったくない、言わば“ボランティア”。ようやくビジネスとして歩き始めた段階ですね。

――動画サイトでの番組制作にはどう関わっているんですか?

企画は当然ながら、カメラも回します。編集をすることもありますね。例えば若手のお笑い芸人のネタを撮って、それを編集して良いタイミングで公開する所まで、すべて自分達で行います。なぜ自社でやるかと言うと、もちろん予算的な問題もありますが、やはり一番重要なのはスピード。撮影や編集を外注するとなると、やはりスケジュール確認から始めないといけない。自社だと、自分さえ空いていれば、思いついた時にすぐに動けます。1日置くと死んじゃうネタっていうのもあるんで、そういうものは、自分で機材をかついでいって(笑)、すぐに編集して、その日のうちにホリプロチャンネルにアップしています。

――ただ、テレビ局ではないので、スタジオもなければ、カメラもない、というイメージがありますが……。

テレビ局ほど本格的なものはありませんが、簡易なものは一式ありますよ。カメラだけは少し良いものを用意して、パソコン1台と編集ソフトである程度の作品は出来ます。テレビと比べると高画質じゃなくても問題ありません。スタジオも会議室で代用しています。多くを望まず最低限の範囲で最高のクオリティを目指して臨んでいます。

――動画に関連する以外の業務もありますか?

あとはSNSにも力を入れていますね。例えばアメーバやグリーでタレントブログや、ゲームにタレントのキャラクターを登場させる事業。ブログで言うと、書くのはもちろんタレント本人なんですが、更新状況など日々の管理をしています。また、DVDの制作をしている部署が別にあって、連携してDVDの制作を行ったり、ファンクラブ業務もやっていますし、アプリの企画なども他の部署と連携してやっています。あとは、動画と静止画を合わせたデジタル写真集を企画したり……。

――本当に多岐にわたる分野に関わっているんですね。

そうですね。もちろんビジネスとして大当たりするものばかりではないですけど、いろいろなモノをつなげていってビジネスにしていくのが僕たちの部署の一番の目的です。「コレとコレをくっつけたら新しいんじゃないかな」「コレは面白いから、コッチの面白いモノとつなげればもっと面白いなるんじゃないかな」「出来上がった面白いモノをどこに飛ばしていこうか」ということを常に考えています。

画面が「8」で埋まったときは「よしっ!」~仕事のやりがい・大変なこと~

――テレビ業界で働いていた永田さんにとって、動画サイトの視聴者数っていうのは、圧倒的に少ないと思います。その中でのやりがいはどういった部分ですか?

そうですね。ただ、少なかろうが多かろうが、見ている人が楽しんでいるかどうかの方が気になるんです。そういう意味では、ニコ生やYouTubeではテレビと違ってコメントの機能があるので「今日の放送は面白かった」って言われると、テレビで良い視聴率をとった時よりも嬉しかったりもするんですよ。

――反応がリアルですもんね。

そうなんです。テレビで視聴率がよくても、視聴者にどれだけ集中してみてもらえたかは分かりません。確かに『Qさま!!』の視聴率がよくて表彰された時や、子どもに見せたい番組に認定された時も嬉しかったんですけど、それと同じように、仮に少ない人数でも「おもしろかった」ってコメントが入ったり、ニコ生だと、みんな「888888888888(パチパチパチ=拍手)」ってコメントに書くんですよ。その「8」で画面が埋まったときは「よしっ!」って思いますね(笑)

――リアクションで言うと、テレビよりネットの方が速いですもんね。

はい。そしてシビアです。面白くないものには、絶対に面白いって言ってくれませんから。そこは勉強になりますね。あと、絶対に忘れてはいけないのが、出演者に楽しんでもらうこと。それが大事ですね。出演者が楽しんでいるかどうかは、視聴者に絶対に伝わると思っているし、それはテレビでも動画サイトでの番組でも変わりません。

――では逆に、テレビと違う部分はありますか?

それはあります。テレビでつくった番組のフォーマットはネットでは意外に通用しない場合があります。テレビだと、きちんとしたオープニングがあって、司会者が登場して、その後、ゲストが登場して、、、という段取りがありますよね。ただ、動画サイトでの番組ではそれは通用しなくて、視聴者はコメントを書き込みたいだけで、内容よりも、タレントに自分のコメントを読んでもらうことを楽しんでいたりするんですよね。

――よりネットの特性を活かした作りですね。

そうですね。あとテレビと違って、ニコ生だと、例えば「今87人が見ている」とか明確に分かるわけですよね。だったら、「この87人に楽しんでもらうためには何をすればいいか」という所から始めることができるわけです。例えばコメントを読んでもらうことだったりする事と仮定しますよね。自分のコメントを読んでもらうと、またそこにコメントをする。するとコメントが増えて、番組自体も盛り上がって、「この番組は楽しいね」って口コミで広がって、次回の放送では人数が増える・・・そういった狙いでやっています。

根底の部分は変わりません。~仕事で心がけていること~

――お仕事の中で心がけていることは?

やはりホリプロって芸能プロダクションなので、番組や作品全体のクオリティを考えるのは当然のことながら、所属のタレントをよく見せることも非常に重要なんです。そこが一番良く見えるための方向は、常に考えていることですね。そこが芸能プロダクションが番組の制作まで関わることの一つの意味合いかなと思います。

――ただ、これだけたくさんタレントがいると、裏番組でバッティングすることもありますよね?

当然ありますね。1日は24時間しかないし、民放で言うとチャンネルも5つくらいしかない。そんな感じで裏表を考えているとテレビやラジオでは出る場所がなくなっちゃう。そこでどうするかというと、ウェブ上での番組になるんです。そういう考えからもこのインターネットでのメディアというのは広がっていきますよね。

――テレビ番組の延長線上としての位置づけですね。

結局、いろいろな技術が発達して、チャンネルが変わっていっても、タレントが視聴者のみなさんに届けることって昔から変わらないと思うんです。結局はサービス業でもあって、見ている人を喜ばせないといけないわけですから。それを実行するのがタレントであり、その場を作るのが我々の仕事。僕が若い頃にラジオにハガキを送ったりしたように、今の子たちはニコ生にコメントを書き込みます。やはり根底の部分は変わっていないんですよね。そこを大事にして、忘れないようにしたいですね。

――また、一般的にネットでの生放送は放送倫理の部分でも気になります。

そうですね。僕は基本的にはテレビと同じ倫理のもと放送すべきだと思っています。テレビで放送できなものは、やはりネット番組でもダメ。ホリプロが会社としてやっているチャンネルなので、コンプライアンス的な監修は特に注意している点です。確かに「ネットだからやってもいいでしょ?」って考える人は大勢いると思いますが、僕はこれまでにテレビの世界で学んできたことと同じように現在の仕事に活かしています

自分の感情を素直に持つことが大事です~仕事での必需品~

――仕事での必需品はありますか?

モノだとあまりないですね。気持ち的な必需品は、モノゴトの意味合いを知ろうとすること。「これってなぜ売れているのか」とか。

――そういったことを常に考える姿勢ですね。

持ち物ではないかもしれませんが、そういうのは常に持っていますね。だから他の人が見たら、かなり変に思われるかもしれないけど、僕は街中でも電車でも、相当キョロキョロしています(笑)。電車の中吊りは当然ですが、何を見ているのか分からないくらいキョロキョロしていますね。

――いろいろなことに興味を持つことですね。

そう。いろいろ見ていると、その時々のキーワードが必ず見えてくるので、それを掴んでおけば、例えばお笑い芸人のネタを見ていても「その時事ネタはちょっと古いね」とアドバイスすることができたりします。

――その他に、今後エンターテインメント業界や、インターネットを使った業界を目指している若い子たちに「こういうことを普段から意識しているとよい」といったことはありますか?

抽象的な言い方になりますが、“自分の感情に素直でいること”が大事じゃないでしょうか。自分の感情を素直に出せるようにしておくことだと思います。何かを見たり聴いたりした時に、素直に感じとる。面白ければ笑えばいいし、つまらなかったら怒ればいいし、悔しかったら泣けばいい。僕が思うエンターテインメントって人の感情に訴えかけるものなので、自分がそうできる人じゃないと、発信することはできないような気がします。

――そうなるための具体的な方法はありますか?

まずは絶対に食わず嫌いにならないこと。例えば「僕は月9ドラマしか見ません」じゃなく、ドラマが好きなら全部のドラマを見た方がいいし、「僕はドラマしか見ません」という人はドラマだけじゃなくて、バラエティも見た方がいい。僕も今と別の部署にいた時に、1週間のほとんど全部のドラマを見ていた時期があるんです。その時に水戸黄門を見てみたり。刑事モノを見てみたり。そうすると、なぜ水戸黄門があれだけ長く続いているのかが分かるんですよね。「僕はこれが好き」「私はこれが嫌い」っていう感情を持つことはぜんぜん構わないのですが、「だから他のものは認めない」という考え方はやめたほうがいいですね。

――先入観はなくすべきだ、と。

そうです。1度は触れてみて、ダメだったら捨てればいい。特に今はコミュニケーションツールがネットだったりメールだったりの時代だからこそ、余計に自分の感情を素直に持つことが大事ですね。面接でも「へこたれません!」とか「根性あります!」とか「頑張ります!」なんて言う人は意外とこの業界に向いてないのかもしれない。それは当たり前のことなんで。スポーツ選手が「練習します!」って言っているのと同じですよね。



一つの局として活性化していきたい。~今後の目標~

――今後の目標はありますか?

個人的な所では、映画を作ってみたいですね。キャノンの5Dというカメラがありますよね? この前、仕事で初めて動画を撮ってみたんです。すっごくキレイに撮れるんですよね。それを見て素直に「うわ、映画作りたいな!」って(笑)。短編でもいいので、ここのスタジオとかを使って。

――劇場をおさえなくても、ネットを使えばチャンネルはありますもんね。

そうですね。今は30分くらいの番組を放送しているだけですけど、ここで映画を作りたいっていうのはありますね。

――ではいつの日かホリプロチャンネルで、短編映画が放送されているかも知れませんね。

はい。そこにホリプロのタレントがたくさん出ている、と。それがうちの強みなんで。制作もできれば、タレントもいる。テレビ局ではないですけど、一つの局として活性化したいなと思います。

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