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第6回 目の前にあることからやっていくと、それが階段になっていく。

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株式会社MLJ

メディア事業部 エンタテインメントセクション

プロジェクトマネージャー  若山勝彦さん

 

今回、お話を聞いたのは、モバイルサイトの制作を中心に、幅広いWEBサービスを提供する株式会社MLJ。GLAYをはじめとした超ビッグアーティストの公式モバイルサウンドや、レアル・マドリードなど、世界的なビッグクラブの公式モバイルサイトの制作を行っています。

そんな超メジャーなお仕事をバリバリとこなすのが、デザイナーの若山さん。経験と努力に打ち出された、独自のデザイン論から、これからデザイナーを目指す若者へのメッセージまで、力強く語っていただきました!

モバイルにもパソコンサイトの世界が!! ~この仕事を目指すきっかけ~

――今のお仕事につくまでの経緯を教えてください 。

僕がこの会社でモバイルに関わる仕事を始めたのは2003年から。あくまで僕の知っている範囲での話ですが、当時のモバイルサイトは単純にテキストが並んでいて、そこにロゴや画像が申し訳なさそうに(笑)置いてあるだけみたいなレベルで、今のようなデザインされたものはありませんでした。ディスプレイも、それまでのモノクロからカラーが当たり前になったぐらいの時期ですね。その時に、今も携わらせて頂いているアーティストの公式モバイルサイトを作るという話をいただきました。それまではずっとパソコン用のサイトでディレクション(=統括業務)をやっていて、モバイルは全くの未経験でしたが、せっかくお話をもらったし、期待には応えたいので、それまでパソコンサイトで培ってきたノウハウをモバイルの容量制限内で表現してみようと思ってお引き受けしました。で、やってみたら意外と好評で(笑)。「モバイルでもパソコンサイトのようなデザインはできるんだ!」という評価を頂きました。

――就職する前は専門学校に通っていたと聞きました。

はい。モバイルサイトとは直接的には関係ない「マルチメディア科」という学科で勉強していました。当時は「マルチメディア」という言葉がすごくイケてたんですね(笑)。で、そこを卒業して就職するわけですが、時代は就職氷河期真っ只中でしたし、例えばメーカーのような、昔からある業態には行き詰りを感じていたので、当時まだ黎明期だったこの業界を選びました。

―― インターネットの世界なら、まだ先がありそうだった、ということですか?

そうですね。すでに格付けが済んでいて、もう散々草が刈り取られているような場所ではなく、まだいっぱい生えているフィールドで働きたかったんです。ちなみにその当時のウェブプロダクションは「先輩がいない」時代。ネット上でデザインをしたり、企画をしたりすることに対して、みんなが手探りでした。

―― 専門学校では具体的にはどんなことを学んでいたんですか?

イラストレーターやフォトショップなど、デザインの基礎に関しては、そこで学びました。それに加えて一般常識やビジネスマナーですね。在学時に、ウェブ業界ですでに働いている方が講師として来校したことがありました。その人が「俺は、html(=HyperText Markup Language:WEBページを記述するための言語の一種)を書くだけで2000万稼いでる」って豪語しているのを聞いて、「それ、マジすか!?」って(笑)。僕たちの少し上の世代は、一番稼いでいた世代だと思います。当時は自社のホームページが名刺代わりに必要になってき始めていた頃なので、企業からすると「とりあえず作る」っていうスタンスだったと思います。そういう意味では、これからウェブ業界で働くならスマホ関係のスキルが一番旬ですよね。当時のウェブ業界にあたるのが、今で言うとスマホだと思います。あの頃ウェブの仕事はいくらでもあった。今まさにそれと同じことがスマホで言えるんじゃないかな。だから学生のみなさん!リキッドデザイン(¬=ブラウザの画面サイズに合わせて、表示されるようにデザインするページのことをさす)を勉強しましょう!っていうか僕も勉強中です(笑)

いかに効率的に売り上げを高めるか。 ~現在の仕事内容~

―― では現在のお仕事の内容を教えてください。

新規サービス立ち上げ時のデザインやバナーのデザイン、そして広告物のデザイン、そういったことが主ですね。更新などはチームの他のスタッフが行います。

?―― デザインだけでなく、サイトの企画などにも関わりますか?

もちろん企画や構成の部分からやります。もう同じチームで何年もやっていて、スタッフみんながツーカーの関係ですし、僕自身も打合せ段階から参加しているので、構成が固まっていない状態でも「後は若ちゃんにおまかせ!」みたいな感じでオーダーが来ます。あとは流動的に「足りなかったらまた足して」といった感じです。自宅でやっているわけではなく、すぐ横に他のスタッフもいるので、その都度、話し合いながら進めていきます。

―― モバイルサイトデザインをする上で重要なことはなんですか?

モバイルサイトのデザインとはインターフェイスのデザインなわけですが、どういうコンテンツを取り扱うかによって重要なポイントは変わってくると思います。うちの会社の場合は音楽コンテンツが売り物ですので、ユーザが求める楽曲やアーティストの情報へいかに素早くスムーズに誘導していくかを常に考えてデザインしています。「この場所にこういう機能のボタンを置く」とか「ここに情報を何件ならべる」といった、情報レイアウトのすべてが、その目的のためにあります。要は売り上げを高めるための効率的なデザインが重要ということですね。

脊髄反射的な反応を促すデザインを。 ~仕事で心がけていること~

―― 仕事をする上で心がけていることはありますか?

ユーザ目線で自分のデザインに向き合うことですね。当たり前の話ですが、デザインする上で重要なのは自己満足でもなければ、そのデザインにオッケイを出す上司の満足でもなくて、実際にお金を払う画面の向こうにいるユーザの満足です。だからそのことをいつも意識しています。ユーザーに見ていて楽しいと思ってもらえて、次のページに進みたいと思ってもらえるようなデザインを心掛けています。

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あともう一つ考えるのは、“脊髄反射的反応を促す”デザイン。つまりは感覚的に押したくなるようなデザインです。ユーザーに「あ、これに興味がある」とはっきり意識させるだけじゃなく、「なんとなく」「とりあえず押してみよう」といった気にさせたいんです。例えば、画面全体のなかで一番押してほしいボタンを少しボコっとさせたり。そういった部分は常に狙ってデザインしています。

―― ユーザーの無意識を、意識的に操作しているんですね。

さらに、訪問者の文脈も考慮しなければいけません。検索からうちのサイトに来た人は、すでに音楽を求めていることが分かっているわけです。そうなるとコンテンツの探しやすさが重要ですし、 “なんとなく”訪れた人に対しては、例えばオススメのコンテンツがちゃんと見えるようにしてあげないといけなかったりします。

―― ユーザーがどういう経緯で辿り着いたのか、またどういった気持ちで来ているのかを考えるわけですね。

そうです。例えばMLJのサイトでも、広告から来た人と検索から来た人とではトップページのコンテンツの並びや配置を変えています。どんな文脈で来ているユーザーが多いのかを考えて、その上で、それぞれのターゲットに対しての精度を上げていく。そういうことを心掛けています。結局「クリックさせてナンボ」の世界ですから。あと、例えばアーティストページをデザインするとしても、超メジャーなアーティストであれば、ダウンロードリンクが一番上にあればそれだけでよかったりもします。逆に、ファンの幅は狭いけど、好きな人にはすごくウケるようなコアなアーティストだったら、キッチリとした説明文を掲載するとリアクションが良かったりします。

―― ユーザーの特性だけではなく、商材の性格もデザインに反映されるんですね。

そうですね。僕たちのビジネスはB to C(=Business to Consumer:お客さんが一般ユーザー)なので、結果がすぐ数字になって出てきますので、それぞれの商材に対してトライ&エラーを繰り返して、最適なデザインアプローチや方法論を確立するようにしています。

あとはユーザーに聞いてみる。 ~仕事のやりがい・大変なこと~

―― 仕事をする上で大変なのは、どんなことですか?

やはり結果が数字で如実に出るので、そこは大変ですね。でも、ユーザーからのリアクションを生々しく感じられるのは楽しいことでもあります。

―― もちろん思ったほどの効果が出ないこともありますよね?

ありますあります。例えば広告デザインでは、前までCTR(Click Through Rate=広告がクリックされる割合)が20%だったのに、急に5%に下落!みたいなこともあります(苦笑)。広告代理店の人に「チャレンジしてみたらいいんじゃないですか!」って言われて、チャレンジしたらコケたっていう(笑)。でもこれはよくあることで、自分達的には「良し悪しはユーザーが評価することでしょ?」っていう感覚があって、スタッフ内の好みの話をしても仕方がないので、新しいチャレンジする時はあれこれ議論せず、とりあえず作ってリリースしちゃいます。あとはユーザーの反応を見て、効果が出ないのであれば修正。良ければそれをブラッシュアップしていく。というような感じで精度を高めていきます。出版物と違ってすぐに修正できるのがデジタルメディアの良いところですね。

―― では逆に、やりがいはどんな部分ですか?

繰り返しになりますが、やはりB to Cのビジネスをやっているので、自分たちのやったことに対するリアクションがすぐさまお客さんから返ってくるのが楽しいです。良い反応が返ってきた時は本当に嬉しいです。これ以上のやりがいはないですね。逆に反応がイマイチだと悲しいですけど(笑)

―― 「いいデザインができた!」みたいな喜びはありませんか?

僕の場合は、そういうのは意外とないですね。それよりも、(これはちょっと上で言ってることと矛盾するかもですが)僕のデザインにオッケイを出す上司がいるんですけど、「おっ!いいね~!」みたいなコトを実際に言ってくれるのはお客さんではなくその人なので(笑)、その人のOKラインより上のレベルのものを出すようにはしています。「本当はちょっと不満なのかな?」って思いながら無理矢理に押し通すのはいやなので、少しでもいいからオッケイを出す人のオッケイラインを超えるものを作りたいと思っています。その辺もやりがいにつながっていますね。やっぱし褒められるのは嬉しいですしね。

トイレに行く時には一旦止めて、帰ってきたらまた押して……。 ~仕事での必需品~

―― 仕事での必需品はありますか?

僕はストップウォッチを常にデスクに置いています。というのも、僕がディレクションをやっている時に、デザイナーさんに対して「どのぐらいの期間でできますか?」と尋ねて、即答できる人はあまりいませんでした。だから自分がデザインをするようになって、それぞれの仕事にかかる時間はどれくらいなのかを測るようにしています。ルーティンでやっている業務に関しては、どれだけ早く終わらせることができるかを心掛けています。

―― なるほど! ストップウォッチを!!

新しいデザインを仕上げるまでにどれくらいの時間がかかるのか。もしくは、新しい案件で、構成を考えるのに、どれくらいでできるのか。それを把握するように常にデスクにストップウォッチを置いて、かつエクセルに自分のワークのタイムシートを付けて、何にどれくらいの時間がかかったのかを記入するようにしています。

―― 仕事を始める時に、スタートさせるんですか?

そうです。新しい仕事を始める時にピッと押して、トイレに行く時には一旦止めて(笑)、帰ってきたらまた押して、仕事が終わった時にまたピッと押すんです。こうして自分のパフォーマンスを時間的に理解しておくと色々と有利です。例えば、自分の時間単価を決めておけば、新規の案件に対する見積りもすぐに出せますよね。そうするとクライアントにもすごく喜んでもらえます。

―― それは確かに喜ばれますね。

そうなんです。今の仕事の経験も増えて、ある程度は仕事にも慣れていますし、そうなるとどれだけ効率的に進めるかが利益につながるポイントになってきます。自分の中で、どれだけカロリーを使わずに終わらすことができるか。ストップウォッチがあるとその辺に意識がいくし、あと単純に、ダラダラすることもなくなります。本当にオススメですね。

大きな未来を見据えて、小さな一歩をコツコツと。 ~今後の目標~

―― 今後の目標を教えてください。

マイクロソフトが2006年~2007年くらいに出した「Vision of the computing future」というビデオがあって、今でもYouTubeで見れます(http://www.youtube.com/watch?v=DGFE4G3x4fk)。それが超カッコいいんですよ。床も壁もデジタル化されていて、駅に着くと地面に矢印が出てナビゲーションしてくれたり、学校でも生徒がしゃべると壁にすぐに翻訳が出て、国籍に関係なく話をしたり、そこにイヌを書いたらイヌがピョンピョンはね始めたり、おじいちゃんが新聞を壁に映し出したり。マイクロソフトは「2013年に、我々はこういう世界にするよ」みたいなことをうたっています。そんな世界に僕も貢献したいですね。今はまだ情報格差がありますが、老若男女みんながデジタルライフを謳歌して、例えば冷蔵庫や机でネットをしたり、そういう世界になっていくと思います。そうなると僕のように、今までWEBのインターフェイス畑にいた人が、プロダクトデザインの方に関わっていくような気もしますし、僕もそういうところに関わりたいっていう希望があります。目標というより、そういう所にアンテナを貼っておきたいっていう感じかな。そういう世界になった時には、そこでもデザイナーもしくは、設計者として第一線で関わっていられれば嬉しいですね。

―― ものすごい壮大な夢ですね。

そうですね。でも、そういう大きな目標を叶えるためには、目の前にある仕事をキッチリやることが大切ですよね。僕はいつも考えてるんですが、人間には「やるべきこと」「やれること」「やりたいこと」の3つがあると思っています。で「やりたいこと」だけを仕事にして生活できる人は一握りだと思います。「やりたいこと」が「やるべきこと」である幸運な人も一握りだと思います。だから「やるべきこと」の中から「やれること」をやる。具体的には、今の自分に“できる仕事”を与えてくれる人達や、一緒に仕事をしてくれる仲間を大切にして、目の前の案件を一生懸命やる。それがどんなにショボイ案件に見えても、それがやがて階段になって、新しい場所にたどり着けるんだと信じて日々仕事をしています。

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と、なんだか超カッコイイことを言っちゃいましたが(笑)、これはカッコつけで言ってるわけじゃなくて、自分の社会人生活14年間を振り返ってみると、少なからずそういうモードでコツコツやってる時に限って、新しいチャレンジや成長できるキッカケが与えられてきたような気がします。だから、学生の皆さんも今、目の前にある課題に真剣に打ち込んでください。必ず近い将来役に立ちますので。

オリジナリティを追求しすぎると苦しくなる。 ~メッセージ~

「音楽のコード進行は出尽くした」みたいによく言われるじゃないですか? あれと同じで、ウェブにおける方法論もかなり出尽くしている印象があります。だから「あれと似ているからダメ」みたいな考えはあまり持たない方がいいですね。これからデザイナーを志すのであれば、良いものは素直に良いと思って、反復を恐れない姿勢を持たないとダメ。もちろんパクりはダメですけど、「これは左上に置くのがいい!」って思うなら、毎回でも左上に置くべきだし、自分のオリジナリティとか作家性とかを追求しすぎると、苦しくなっちゃう。デザインの基本をしっかりと学べば、オリジナリティは細部に宿るっていう確信が僕の中にはあります。だから、いきなり「作家性バリバリで、アバンギャルドな……」みたいなデザインに手を出すのではなく、たくさんのデザインを見て、基本をちゃんと勉強して、引き出しを多く持っておくのがいいですね。

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